未来への置き手紙—ナレッジを共有するという優しさ
「これ、前にもやった気がするけど、どうやってたんだっけ?」
業務を進めるなかで、ふと頭によぎるこの感覚。多くの人が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
仕事には、日々の会話、会議、ちょっとした気づきなど、形になりきらない“ナレッジのかけら”がたくさん存在します。そしてそれらの多くは、記録されないまま流れていきます。
でも、もしその瞬間に、ほんの数行でも書き残していたら——
未来の自分やチームメンバーが、同じ迷いをしなくてすむかもしれません。
私たちはそんな想いから、日々の業務のなかで生まれる小さな知見やプロセスを、Notionにまとめる習慣を育ててきました。この記事では、その取り組みの背景や気づき、そしてナレッジを共有することの本当の意味についてお話しします。
「誰かが読むかわからない」けれど、書き残す理由
ナレッジの記録を始めたばかりのころ、正直なところ「こんなメモ、誰が読むんだろう?」という気持ちがありました。
それでも、「まあ、自分の備忘録として」と、気負わずに書き続けていたある日。
1ヶ月前に書いたメモが、まさに今ぶつかっている課題の答えになっていた——そんな瞬間が訪れたのです。
「なんだ、過去の自分、いい仕事してるじゃん」
思わずクスッと笑ってしまうような出来事でしたが、同時に強く実感しました。
ナレッジの蓄積は、未来の自分への“置き手紙”なんだと。
そしてそれは、自分だけでなく、誰かのためにもなるかもしれない。
一見些細に思える記録が、チームの誰かの「困った!」を解決する糸口になることだってあるのです。
書くことで“曖昧さ”が整う
もうひとつ、ナレッジを「書く」ことには大きな意味があります。
話しているときはなんとなく理解していたことも、文章にしようとすると言葉に詰まることがあります。
「これ、説明しようとすると意外と難しいな」と気づくことがあるのです。
これは、頭のなかの情報がまだ曖昧な状態である証拠。
書くことを通して、自分の理解が整理され、構造化されていきます。
つまり、ナレッジの記録は、アウトプットであると同時に、自分自身へのフィードバックでもあるのです。
「役に立つ」は、誰かの視点に立つことから始まる
ナレッジを共有するときに意識したいのが、「誰かの未来を想像する」という視点です。
- 入社して間もないメンバーだったら、どんな情報がありがたいだろう?
- このプロジェクトに初めて関わる人が見たとき、何が書かれていると安心だろう?
- 過去の失敗や工夫を、どうすれば再現性ある形で伝えられるだろう?
こうした想像力は、決してマニュアルには書かれない“やさしさ”のようなものです。
書き残すことは、単なる業務効率化ではなく、まだ出会っていない誰かの不安や迷いにそっと寄り添う行為だと思うのです。
ドキュメントは「チームの資産」になる
ナレッジをコツコツと記録していると、不思議なことが起こり始めます。
「これ、前に◯◯さんがまとめてた気がする」
「その件なら、Notionにまとまってるよ」
こんな会話が自然と生まれるようになってくるのです。
属人化していた情報が、徐々にチーム全体の共有財産になっていく感覚。
一人では見つけられなかった知恵が、少しずつチーム全体に広がっていきます。
これこそが、ナレッジの力であり、ドキュメント文化の価値なのだと私たちは感じています。
「完璧じゃなくていい」が続けるコツ
とはいえ、最初から完璧なドキュメントを作ろうとすると、手が止まってしまいます。
- 文体がバラバラでもいい
- 構成があいまいでもいい
- ちょっとした箇条書きでもOK
大切なのは「書くことをためらわない」こと。
そして、時間があるときに少しずつブラッシュアップしていけば十分なのです。
私たちのチームでは、「気づいた人が、気づいたタイミングで少しずつ整える」ことをルールにしています。
だからこそ、ナレッジの蓄積が“個人の努力”に依存しすぎず、自然と続けられるのだと思います。
「未来が楽になる」とは、どういうことか?
最後にもう一度、この記事のタイトルにもある「未来が楽になる」という言葉について考えてみます。
それは単に「手間が減る」という意味だけではありません。
- 初めての仕事に挑む不安が少し和らぐこと
- 判断に迷ったときのヒントがあること
- 自分のやり方が間違っていないと確認できること
そんな小さな“安心”の積み重ねが、未来をほんの少し楽にしてくれるのだと思います。
ナレッジの共有とは、その安心を先回りして届ける行為。
相手の立場に立って、まだ訪れていない未来に想像力を働かせる——
それはとてもクリエイティブで、やさしい行動なのです。
おわりに
ナレッジは、書き残して初めて“資産”になります。
それは、未来の誰かの選択肢を増やし、安心を届ける置き手紙。
私たちは、これからも「書くことの価値」を信じ、日々の気づきを少しずつ記録し続けていきたいと思います。
完璧じゃなくていい。
でも、書いておこう—そんな気持ちが、チームの未来を支える力になるのです。